嗚呼ぶっ倒れそうだ。だがしかし、息子が学校へ行きたくないというのなら仕方ない。そして息子は不安なのか、私にびったりとくっついている。
昨日息子の担任と電話をした。
唾を飛ばす勢いでこちらは抗議したけれど、意外なことにこちらが恫喝された。
「学校に来ないということは、どうされるんですか?」
なんてヒステリックにわめかれて、『きょとん』とはこのことだ。
暗に自主退学を促されているようにしか、言葉の裏側にある追い込みにしか、私には聞き取ることができなかった。
何か問題や事件が起こった時、往々にして被害者の方が悪くなり、泣き寝入りするということはよくある話だ。
「あなただって悪かったんじゃないの?」
という、強姦事件に代表されるあの空気。
悪いのは100%コマを奪った渡辺くんであって、奪われた息子に落ち度なんてものはない。
また落ち度らしきものを探すという行為は公平な裁きを下すのならば、加害者の肩を持つことになるので、最もやってはいけないことだろう。加害者はあくまでも加害者だ。
盗みに理由がある?そこには何が何でも息子の赤いコマがほしいという、ねじれた欲望だけが燃え盛っているのであり、その欲望を満たすために目の前のコマに渡辺くんが手を伸ばしているに過ぎない。
彼は左手にコマを持ち右手に黒いマジックを持つと、マスターベーションにも似た自由な発想で落書きをしたことだろう。
渡辺くんの感性で黒く塗りつぶされた、ビニールに包んで捨てるべき『ゴミ』。
仮に原型をとどめていないこのゴミを「返した」と突っ返されてもだ、最早それは息子のものとは別物で悪臭を放っている。
人間と少しでも接触すると、しばしばこの手の下らないことに巻き込まれる。
でも私はこういう時思う。いかに己の心を消耗させないか、下らない人に時間を掛けるほどのバカバカしさよ。
せっかくお小遣いで買ったコマだったけれど、息子にはその失ったお小遣いを再び授け、コマは私が買い与えようと考えている。下らないやつらに関わる時間がもったいないではないか。
私のすぐ横で電車の絵を描く息子。
ここは女子医大、心身医療科前。
今日は外来のために女子医大まで雨の中やってきた。
息子はリュックに本やお絵かき道具を詰め込んで、わくわくした気持ちなのだろうか、
「先生にこの絵あげよっかな!」
と描いた絵をピラつかせながら張り切っている。
それが救いだし、それでいいんだ。