SLEで入院すると(双極性障害では未だかつて入院はない)特に入院初期の頃、体を拭けないという不潔な日々を平気で励むことが多い。
それは24時間精神がイカれていて、清潔の重要性をすっかり忘れてしまっているからだ。
痒いだの臭いだのということに気を遣っている余裕などないほど、精神が切迫している。
たまに担当ナースが体を拭きに来てくれることもあるのだけれど、彼女たちも忙しいし面倒臭いのだろう。私の体は放置気味になることが多々ある。
結果精神が正常に戻り、この異常に不潔な状態に気付いた時、髪の毛は汗と塩でバリバリになってしまっていて、何度髪の毛を洗ってもしばらくは髪の毛がカチコチのままだったりする。
その位入院初期の頃というのは本格的に精神が落ち込み、特に身づくろいができない。
だから主人が「せめて体だけでも」と病院の売店で見つけてきたのがこれだ。
こんなもの、本当にキレイさっぱりと私の汚れを拭き取ってくれるのかしら?と半信半疑であったが。
ところがパッケージを開けると、シャボン玉の香りがプカプカとした。色調にメリハリのない病室に、その香りは拡がったのだ。
「背中を出して」と主人に促され、私は素直に従う。そのぬれタオルの冷たさが、心地よく私の背中をすっと撫でる。
久しぶりに積もった垢を取り去る。人間としての喜びを得る。しゃぼんが香る。
こうして私は、このぬれタオルに入院中だいぶお世話になることになった。
というのもナースを呼んで手間を取らせ、彼女(または彼)の機嫌を損ねるくらいならば、このぬれタオルで自分を拭って清潔を保った方が、他人に迷惑を掛けることなく、何倍にも精神的には楽だからだ。
そこで主人にお願いし、このぬれタオルを通販で買ってきてもらい、入浴が面倒な時にはこれを使い、しのいでいた。
ところでこのぬれタオル、家でも応用して使える。そう、鬱状態でお風呂に入れない時に大活躍するのだ。
そういうわけで我が家では、ぬれタオルのストックが山ほどあり、これで私も安心して鬱に専念できる、という冗談のような本当の話。
またこのぬれタオル、震災用に備蓄しておく、という風に一般の方は考えておいてもよかろう。
私の経験上痒みや臭いというのは、3日洗わないと出現してくるものであり、そう案外と清潔な状態というのは保てないものであり、苦しめられるのである。
確かに生きているだけで良かったね!なのだけれど、言い換えれば『生きている』ということは汚れが積もり、臭いを放つことなのである。
少しでも快適に近付けば、精神の淀みも徐々に浄化され、その時にようやく人は、前向きな行動を取れる。
さらっと簡単に汚れを取ってくれるものというのは、人間らしい生活を送りたい時、なくてはならないものなのだ。