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告白 その7

小学校6年秋の運動会。運動が好きな私にとっては毎年自分の実力を発揮できる場であるため、心は踊り張り切ったものだ。

けれど6年生ともなると、思春期特有の羞恥心から来る無気力感なのか、例えば徒競走などはわざと手を抜いて走り、それまでの年は1位以外など獲ることがなかったのに、6位になってみたりする。

そうして少し反抗的な時期を自分なりに処理していたのかもしれない。その他の団体合戦というものは、迷惑を掛けてはならないという一心で一所懸命頑張ったのだけれど、個人の記録に関するものは自主的にサボった。

あれは他学年の出し物を見物していた時だ。後ろから声を掛けられる。母だった。

ロングのフレアースカートに日傘といういで立ちの母は、運動会へやってきた父兄とは一線を画す雰囲気であり、ある意味異様であった。

私は母のまとった空気感に圧倒されてしまい、その時母とどういう言葉を交わしたのかはすっかり忘れてしまった。

とにかく母は私と話し終わると、くるりと背を向け言葉なく後ろ手に手を振るしぐさをしてきて、どこかへと歩いて行ったのだった。

運動会が終わり帰り道、弟とじゃれあいながら家へと向かう。真面目な態度で運動会に参加してなかったとはいえ、お腹が空いていることに間違いはない。時々走ったりして家路を急ぐ。

「ただいま」

家の玄関に立つ。

「手と足を洗っておいで」

兄の声がした。

弟が私にぶつかってきたりして邪魔をする。

私は弟にもはやく靴を脱ぐように目配せする。

ようやく居間のドアを開ける。

するとそこにはあるはずのダイニングテーブルや棚、飾ってあった絵、ほとんど全てのものが無くなっていた。

唯一黒いアップライトのピアノだけが、ごろんと横たわっている。

私はこの状況を飲み込めずに、とにかく手と足を洗おうと居間を横切り、お風呂場へ向かう。弟もおそらく同じ心境だったのではないか。

大きく膨らんだ不安を冷やすために、私と弟は長めに冷たいシャワーで足を洗った。いつもだとふざけあうのに、二人とも無言のままだ。

いい加減に時間稼ぎはできないと、観念してお風呂から上がる。

居間で立ち尽くしている父と、床に体育座りをしている兄。

「あの女にやられた」

父が口を開いた。

父の説明によると、殆どの家具を持って母がどこかへ消えたということ。

それから定期貯金や学資保険の類は全て解約されて、普通口座にすら1円も残っていなかったということ。

どうやら横浜の医者と駆け落ちしたらしいということ、そういうことを口早にまくし立てられた。

まずい中華料理の味を思い出す。

合点がいった。

母は既婚者の医者をたぶらかし、そしてどこかへ消えたのだった。

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