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告白 その11

「ファミレスにいるから来てくれる?」

母からの電話であった。

家を出て以来、東京から茅ケ崎というところに引っ越したらしい母が、不定期に私たち子どもへ会いにくるようになる。

母が言うには何でも直接家を訪ねたところ、家政婦に冷たく追い返されるような態度を取られたとかで、以後、近所にあるファミレスに呼び出されることが度々あった。

弟は小さいので、母親に会えることが素直にうれしかったようだ。

兄は、淡々と話すやり方から推測するに、だいぶ遠いところから客観的に、自分の立場を理解しつつ、そうかといって母の機嫌を損ねないよう相手をしているように思えた。

私はと言えば、このテーブルを空々しく感じ、何を頼んでもいいと母は言うけれどアイスティーだけをいつも頼み、ストローでちびちびすすり上げながら時が過ぎるのを黙って待った。

母が話す内容は高齢者のようにいつも同じだ。

「あの時はお金がなくて、解約するしかなかったのよ。だから仕方なかったのよ」

そういう嘘を平気でついた。嘘をつき続ければ、何れ真実に昇華すると信じるように。

ところが彼女は資産家出身なので、幾ばくかの土地や金を親から相続している、そういう話を以前に何度か私は聞かされたことがあった。

だからおそらく宝石や着物など買い、それらを身に着けて遊び歩くレベルの生活を続けて遺産を食いつぶし、学資保険やら定期預金に手を付けた。そう考えるのが妥当だった。

そういう言い訳を並べた後に始まるのが決まって父親の話だった。

「アイツはひどい奴だよ」

そんなことはわざわざ母に教えてもらわなくとも私は毎日体感していることなので、戯言のようにしか聞こえなかったし、自分のことを棚に上げてベラベラしゃべる女だな、と冷たい視線を送る。

家に残った私。帰る場所を失った母。立場が違った。

この女はもう、どう考えても家に帰ることはできないだろうし、そもそも母親らしき立場に君臨している女とその一族がほぼ毎日家の中をウロウロと何かないかと嗅ぎまわっている。

「もう無理だよ」そういう言葉を心の中では掛けていた。

自ら自分の立場を放棄した母からは、子どもを置いて出て行った反省の色というものは感じられず、自分は被害者だと唾を飛ばす勢いで主張する。

こうして母は一通り気の済むまで文句を並べると「もう電車がなくなるから帰らなきゃ」と、我が家に帰る口ぶりで横浜の大学病院に勤める医師との住処にのこのこと帰っていくのだった。

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