講義後、携帯を確認すると着信履歴が涼太で埋め尽くされていた。
急いで折り返し電話をする。
ワンコールで出た。
「てめえどこ行ってんだよ!」
父親と同じ口調である。
「今授業だったんだけど」
「うるせーよてめー、早くいつものベンチに来いよ!!」
金切り声で電話を突然切る涼太。
いつもの場所とは、仲の良いグループの皆が何となく集まっているベンチがあり、そこを指してしることを私はすぐに理解した。
教室からベンチまで5分は掛かりそうなので、私は走って目的地を目指す。
するとそこには不貞腐れた感じでベンチに寝転がる涼太と仲間数名がいた。
「てめえ、なんで電話にでねーんだよ」
「だって授業中だもん。出られるわけないじゃん。それにマナーモードにしていたし」
「てめえマナーモードになんかしてんじゃねえよ」
「だって授業中だ…」
「うるっせーんだよ!」
その場にいた学生皆が涼太の大声に注目をする。
「おめえのせいで時間が無駄になったじゃねーかよ!クソが」
「時間の無駄って…サボって暇だったなら授業に出ればよかったんじゃない?」
仲間の1人が助け船を出してくれた。
「いや、俺に断りもなく勝手に授業に出たコイツが悪いんだ!」
怒りが静まらない涼太。
でもこういう時、そう友人がいるところでは声を荒げることはあるのだけれど、決して私に手を出すことはなかったのだ。
彼の感情の起伏というのは、そういう意味ではしっかりとコントロールされていたのではないか。
「帰るぞ!」
最終の講義であったため、私たちは数名で大学の最寄り駅目指して歩いた。
ところがだ、私は歩くたびに膝に激痛が走り、前に進めないのだ。
仕方なく歩みをゆっくりを進めるしかなかった。
「てめえふざけてんじゃねーよ!」
涼太の怒号が飛ぶ。
「別にふざけているわけじゃないよ。本当に足が痛い」
「知るか。勝手に1人で帰れよ」
仲間たちは私と涼太のやり取りをニヤニヤと見守っているだけだった。
「これから飲みに行くから、金貸せよ」
「嫌だ」
涼太は友だちの手前、殴るのを抑えたのだろう。
「てめえみたいなダセー女、俺ぐらいしか相手にしないってのになっ」
そう吐き捨てると涼太は友だちの輪の中に消えて行った。
私はその時、悔しいだとかいう感情はなくて、とにかくどうにかして家に帰らなければならないと、とても焦っていた。
どうしよう、このままこの街で1人、一夜を明かすのか。
ところがしばらくすると痛みは消失し、普段通り歩くことができた。
大学4年生の春、私の体は私に色々なSOSを送ってきていたように思う。