4年生なので当然就職活動というものが必要であった。
ところが私の場合、大学に入った時から就職口は約束され、つまりは父親に伝手があったために特にシャカリキになることはなくて、他の学生とは一線を引いていた。
涼太も電力会社の子会社であるが、父親に職を当てがわれ、特に就職活動はせずに悠々と過ごしていたのではないか。
ところが2人して1部上場している会社に内定を貰っていることが、周りの友だちからしたら有り得ない話であり、両者に大きな溝ができ、そうして引き裂きつつあった。
住む世界が違う、そう揶揄してくる者さえいた。
けれども涼太は決して口を割ることなく、自らの手柄で勝ち取ったものだと言わんばかりに、友だちには振舞っていた。
涼太とはそういう男だった。
時は突然やってきた。
大学4年の夏前である。涼太が私と別れたいと言い出したのだ。他に好きな女ができたという。
私はこれを受け入れる。
何故なら涼太との日々が私に変調を与えていたのは薄々分かっていたし、このままでは潰されるな、とも感じていたのは事実だからだ。
彼にしてみれば絞り出すだけ絞って、就職氷河期の中職まで与えてもらい、もう長居する必要はないと踏んだのだろう。
私と別れることによって、全ては自分の手柄にしよう。そう考えていたのかもしれない。
「別れてほしいんだけど」
切羽詰まった演技で涼太が訴える。
「いいよ」
私はこれを簡単に受け入れる。
傷は浅い内がいい。そんな風に達観している自分がいた。全ての事情が、ここで解き明かされた、清々しい気持ちすらしていた。
揉めると思ったのか、涼太は驚いた顔で外車を運転し続けた。私が誕生日にもらった赤いBMWを我が物顔で乗り回している。
「オレここで下りるから」
助手席に私を残すと夜の闇に涼太は消えて行った。
取り残された私はすばやく運転席に移ると、夜の首都高目指して飛ばして行く。
とてもあっさりした別れだった。
利用する価値がない。
だから捨てた。
それを受け入れる女。
女もそれを望んでいたから。
ただそれだけのことだ。
私は高井戸から首都高に入ると、デタラメに走り、ふ頭の方までやってきた。
こんな所、来たこともないや。
するとふ頭の暗い中、日本車だと思われる車に数人の男がタカっているのが見えた。
「このままでは殺される!」
そう思った私はバックで思い切りその場所を離れると、今来た道を何事もなかったように滑り出した。
涼太との別れもそうだった。
いつだって私は違和感を持っても知らんぷりをする。
小さなころに培った、いつの間にか備えた処世術のようなものだった。