診察後、内藤に女子医大内にある喫茶へと私は連れられて行く。
それまで通院していた都立駒込病院には食堂はあったけれど、こんな大きな喫茶スペースはなかったので「流石私立の大学病院は違う」と感心したものだ。
「好きなものを頼みなさい」
内藤はそういうけれど、私は特にこの場所でご飯を食べようとは思わなかったし、無難にホットティーを頼む。内藤は確かホットコーヒーを頼んでいた。
この喫茶スペースは患者も利用しているようだったけれど、白衣を着たドクターらしき人の姿もポツポツと認められたために、色々な人が自由に出入りできるスペースのようだった。
あくまでも喫茶スペースであり病院の一部に作られているため、壁もなくついたてもなくスペース横の通路を主に病院の職員が急ぎ足で通っていくので落ち着かない雰囲気である。
店内で黙々と食べている人や何か打ち合わせをしている人たち、点滴棒を引きずった人、落ち着くというよりは雑多な集団が金を払って腰を下ろす場所、とでもいうのか。
私と内藤は小さな二人席に案内されテーブルを囲み、注文したものが運ばれてくると手持無沙汰に私は紅茶を飲んだりしてその場を適当にやり過ごそうとしていた。
「明日から早速私の所に勉強に来ないか?春休みだし暇なんだろう?」
内藤がいたずらっぽく笑いながら話しかけてきた。その彼の笑顔は意外と柔和に感じたので、私は緊張が解け少し安心したのを覚えている。
「そうですね、どうせ暇なので、先生のところに伺ってもよろしいですか?」
私もいたずら混じりに内藤に返す。
「それじゃあ早速明日から僕のところへ通ってきなさい」
内藤から私は詳しい待ち合わせ場所や時間を教えてもらい、その後何を会話したかは覚えていないけれど、特に病気に関する、つまりSLEに関する会話は一言もなかったように思う。
「ここは私が払うから」
と内藤が伝票を持ち二人して席を立つ。
「ごちそうさまでした」
内藤にそう告げると内藤は私の肩を手でズシリと掴み「いいんだよ」肩を揉みながら優しく笑った。
私は内藤の手の重みに違和感を覚えながらも振り払うことはせず、されるがままになる。
「それじゃあ明日ね」
友人に告げるような言い方で内藤が別れの挨拶を口にし、白衣をひるがえすと、職員通路へと消えて行った。
彼の軽さに私は一瞬ひるんだけれど、こういう馴れ馴れしい口の利き方をはじめからする、という人間も世の中には意外といるので、あまり気にせずにそのやり方を受け入れたのだった。