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告白 その30

帝国ホテル『なだ万』に私は呼び出された。

店の中に入るとすでに父と美月、それに知らない女と内藤がテーブルを囲んでいる。

「こっちへいらっしゃい」

知らない女が年齢の割には甲高い声を上げて私を呼んだ。

「まずはアナタ、内藤先生に謝りなさい」

「先生がそんなことするわけないじゃないのお」

美月が内藤にしなだれかかるように甘えたポーズを取る。

父は黙ったままだ。

内藤は困ったように下を向いていた。

初対面の女は小森記念病院という聞いたことのない病院の理事長の娘だという。

娘といっても私より二回り近く年が離れているであろう、女を武器にして生きていくには少し無理のある年齢に見えた。

「先生がセクハラなんてするはずないじゃないのお」

また同じ調子で理事長の娘咲子は内藤にお酌をする。

「だいたい、アナタその恰好な何なの?先生に失礼じゃない?」

私はバギーパンツにベレー帽をかぶっていた。父にはただ単になだ万で食事をするとしか聞いていなかったからである。てっきり家族で食事だと思っていたからだ。

そういわれてみれば美月も咲子もスーツを着ていた。ただし内藤にしなだれかかりお酌をする様は夜の女のやり方にしか見えなかったが。特に美月は手慣れた感じが出ていた。

私は特に謝ることはしなかった。別に私は何一つ悪いことなど犯していなかったし、寧ろ謝ってもらうのは私の方なのだから。

その気まずい空気をどうにかしようと二人の女がはしゃいでいるのはとても見苦しく、そしてそこまでしてご機嫌を伺う相手なのだろうかと、庶民的な国産車でドライブに誘う内藤の顔をついのぞき込んでしまう。

大学病院の医師とは意外と薄給で、教授といえファミリーカーであり、お金を払って女を買う余裕がないから、タダでどうにかできそうな私を立場を利用してどうにかしようとしていた、それだけのバカバカしい話だ。

国産車でのドライブの末にレストランに行こうと誘われたのでついていけば、そこは不二家レストランであったり、デニーズであったり、金もないくせに若い女を食そうとする、しみったれたジイさんというのが内藤の正体だというのに。

いや、ここにいる全員がそれに気づいているはずだ。それなのにどうして内藤はここまで持ち上げられ、いい気分にさせられているのだろうか。

大学病院の教授というのは、女子医大の教授というのはそこまでの地位であるのだろうか。

バカバカしくてトイレに立つ。すると少し時間を置いて美月が後を追ってきた。トイレの鏡で髪の毛を直したりしていると美月が私の横に立つ。

鏡の中の美月は泣いていた。けれどその涙は黒くアイライナーで縁取られた目の周りを汚さないような綺麗な泣き方だった。

「私、とても心配しているのよ」

涙で声を震わす。

技だ。

私は仕方なくしばらくこの女の芝居に付き合ってやることにした。

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