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告白 その36

松本ちづるをバス停で見かけた。

多摩の都営住宅に父によって封じ込められたはずのちづるが、私と同じバスの列に並んでいる。

ちづるは当時よりふっくらとしていた。もしかすると精神科の薬の副作用なのかもしれない。

足首は太くズングリとした体形であった。けれど元々の顔立ちは保たれているのですぐに彼女だと分かり、私の時間が止まりそして血の気が引く。

私より随分後ろに並ぶちづるは、勿論私の存在になど気付いていない。時折眩しそうにバス通りの先を眺めたりして、バスの待ち時間を暇つぶししているようだった。

10年以上も前、私はこの松本一家に振り回され、そして悪い意味でしか影響を与えられなかったわけだけれど、今はこうして1人立って生きている。

それでアンタはお前はどうなんだ。

女としての価値は下がり、その容姿ではきっと誰にも相手にされず愛されず、けれどおそらく同じやり方で男に取り入ろうとしがみついているのかもしれない。

それを証拠に年の割に20代のような若い恰好を身にまとっていた。化粧の仕方も若い子のやり方であり、それが哀れを誘うことが理解できていないのか。

私は戯れにちづるに声を掛けようかとも考えた。

けれど狂気の沙汰で父の部屋のガラス戸を鼻水垂らしながらガンガンと拳で打ち付ける彼女の姿が脳裏に蘇り、それを遠慮させた。

ただ風俗産業の廃棄物として眺めることにした。

意地が悪い、そんな見つめ方は確かにそうなのかもしれない。

でも私はその場では、そのやり方でしか自分を立たせておくことを思いつかなかった。

隣のバス停にバスが来る。するとちづるはそちらのバスの方が都合が良かったのか、列から離れて別の列へと並びなおしていた。

彼女が私の横を通る時、気になってちづるの足首を改めてしげしげと眺めてしまう。

昔はか細く華奢でいかにも折れてしまいそうな、守ってあげたいという男性の本能を呼び起こす商売道具であったはずだ。

私は少し切なくなった。

いったいちづるは今、どこでどうやって金を得て、そして飯を食い眠り、誰と一緒に笑ったり悲しんだりしているというのだろう。

彼女の今の日常というものは幸せなのか。

そして歩んできた道はきれいに舗装され、なかったことにできているのだろうか。

もっとも女として人間として価値の無い彼女に、ありきたりな日常など存在するとは思えないけれど。

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