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告白 その44

父は数年前に死んだ。

父は結局はるみという場末のスナックでアルバイトしていた40代後半の女と結婚したのだけれど、なぜかはるみと結婚してしばらくすると急速にやせ細っていき、そうして寝たきりになり、あっという間に死んでいった。

結婚して死ぬまでたった3年の出来事であった。

父が死ぬ1年前、たまたま用事があり父と会う機会があったのだけれど、その時はとても元気そうに見えたものだ。

けれど、ある日突然はるみから「もうお父さんは長くないです」という内容の電話をもらい、駆け付けると父は病院のベッドの上だった。

しかも父は大部屋に寝かせられていた。

入院するたびに一泊10万円するような個室を使用していた父が、大部屋に押し込められていたのである。

衝撃であった。

驚くのはそれだけではない。確かに1年前、父は元気で私と普通の会話を交わしていたはずなのに、ベッドの上の父は一言も人間らしい言葉を話すことができず、「あー」とか「うーうー」という声にならない音を発し、オムツも付けていた。

はるみの説明によると、若年性アルツハイマーと、肝硬変であるという話であったが、はたして本当にそうなのだろうか。

つい1年前はいつもの父親のままだったのだから。

こうして父の具合が悪いという連絡をもらってから数か月も経たない内に、父はあっけなく死んだ。

葬式。生前父にたかっていただろう面子が一応出席をしているのを見かける。

「こんなに早く亡くなってかわいそうだ」などと涙ながらに私に話しかけてくるわけだが、彼や彼女が心配なのは己の寿命であり、父の死を目前にしていつまでもある命ではないのだ、と気付かされ、つい若者の気持ちでダラダラと送ってしまっていた下らない日常を猛省している、といったところでしかない。

葬式は何とか滞りなく終わることができ、納骨は暑い夏の日に執り行われた。

ジリジリと蜃気楼のようなものが揺れる中、私たち一同は大きな石碑のような前まで連れていかれる。

そこはよく見れば、下の方に「無縁仏」と刻まれており、そういうお骨を納める場所であることは確かだった。

お経が始まる。

でもそのお経の意味は分からない。

父の骨はまるでゴミを投げ入れるようにその石碑の中に納められた。

強い風が吹く日だったので、骨の一部が空を舞って行くのが目視できる。

「あっおじいちゃんだ!」

小さな息子が私に教えてくれた。

確かにお経とともに焚かれる大量の線香から出る煙の中に、父の悲しそうな顔が浮かんでいた。

顔は息子と私にしか見えていないようだった。

父は無念なのだろう。

父はこの世に沢山未練を残しているのかもしれない。

でも父は反省はしていない。

醜くまがって空に浮かぶ父の顔からはそういうことが伺えた。

その後遺産相続では父がやはり大きな借金をしていることを暴かれ、はるみも観念して相続放棄をする。

生前父が「はるみのために5000万円の保険に入ってやった」と自慢していたので、今はそれと、遺族年金で細々とやっているのかもしれない。

贅沢な生活をしなければ、働かなくともある程度の年月は暮らせるのかもしれない。

それを勝ち組と名乗るのかは疑問であるが、とにかく額こそ少ないけれど、はるみは働かずして生きることのできる方法を手に入れたようだった。

さて実母の方はまだ存命であり、どうやら兄が母の指の先程でしかない財産を独り占めしようとして、画策しているようであった。

分からないでもない。身の丈に合わない都心のマンションを買い込んでしまい、4人家族にはどう考えても狭い大きさだからである。

実はごく近所に義姉の両親が小さな一軒家で暮らしているのだけれど、そこは転がり込める程の大きさではない。

いや、おそらく兄は計算違いをしていたのだろう。ちょうど良い頃には義両親は亡くなっており、取って代わってそこに住み替えるつもりだったのだろう。

けれどそうは上手く事は運ばなかった。そういうことらしい。

私は『ただで金がもらえる』という、この手の話は断ることにしている。

今まで金の算段によって沢山の歪んだ心と顔の人に出会ってきたし、それは端々につい出てきてしまうものなのだ。

今後兄がどういう動きをするのだろう、というのに関心があるので、また何か動きがあれば書き綴っていきたいと思う。

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